最高裁判所第二小法廷 平成10年(オ)984号 判決 1999年4月23日
主文
原判決を破棄し、第一審判決中上告人敗訴の部分を取り消す。
前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人松本和英、同土谷修一の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 加藤武人は、昭和五五年一〇月一四日当時、東京都足立区関原一丁目一〇〇七番一の土地及び同地上に存在する原判決添付物件目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していたところ、右同日、本件建物について、東日本総合信用株式会社のために、債権額を一五〇〇万円とする抵当権の設定登記がされた。
2 前項記載の土地は、昭和五五年一〇月二一日、前記物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)ほか三筆に分筆された。
3 武人は、昭和五七年ころまでに、本件建物と一体を成すものとして、前記物件目録四記載の工作物(以下「本件車庫」という。)を建築したが、本件車庫の一部は、本件土地のうち同目録二記載の部分(以下「本件係争地」という。)の上に存在していた。
4 昭和六三年一二月二一日、本件土地について、補助参加人のために、極度額を五〇〇〇万円とする根抵当権の設定登記がされた。
5 上告人は、1記載の抵当権に基づき開始された競売により、平成四年六月三日、本件建物及び本件車庫の所有権を取得した。
6 被上告人は、4記載の根抵当権に基づき開始された競売により、平成六年九月二日、本件土地の所有権を取得した。
二 本件は、被上告人が、上告人に対し、本件土地の所有権に基づき本件車庫のうち本件係争地上に存在する前記物件目録五記載の部分を収去して本件係争地を明け渡すことを求めるとともに、賃料相当損害金の支払を求めるものである。 右明渡請求と賃料相当損害金請求の一部を認容した第一審判決に対して上告人が控訴したところ、原審は、上告人は、前記一の1記載の抵当権に基づき開始された競売によって平成四年六月三日に本件建物及び本件車庫の所有権を取得した際、本件土地のうち本件係争地について法定地上権を取得したが、本件車庫が増築されたことについてはその旨の更正登記手続がされていないから、上告人は、右法定地上権をもって、前記一の4記載の根抵当権に基づき開始された競売により本件土地の所有権を取得し対抗要件を具備した被上告人に対抗することはできず、また、右競売により本件係争地について新たに法定地上権を取得したものでもないとして、控訴を棄却した。
三 しかしながら、本件土地について昭和六三年一二月二一日に補助参加人のための根抵当権が設定された当時、本件建物、本件車庫及び本件土地は、いずれも武人の所有に属していたのであるから、右根抵当権に基づき開始された競売により被上告人が平成六年九月二日に本件土地の所有権を取得した際に、本件建物及び本件車庫を所有していた上告人は、本件係争地について法定地上権を取得したものであり、本件建物について更正登記手続が経由されたか否かなどの点は、右判断を左右するものではないというべきである。
右とは異なる見解の下に被上告人の請求を一部認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右に説示したところによれば、第一審判決中被上告人の請求を一部認容した部分は不当であるから、同部分を取り消し、同部分に関する被上告人の請求を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 亀山継夫)